魯山人陶説

魯山人陶説 (中公文庫)

魯山人陶説 (中公文庫)

 天下の北大路魯山人が、いかに長次郎より後の陶芸は駄目で、中国や高麗の陶芸もいまひとつで、長次郎は芸術家だから良いがそれ以外は職人に過ぎないから劣る、ああ日本(長次郎)はすばらしい、だから自分は古陶の再現にこだわろう、芸術万歳、職人はくだらない、ということを繰り返し力説する本。
 陶芸は見て感じれば良いのであって知識などは無用と何度も言っているのは、学者に対するアンチテーゼであって、魯山人のアマチュア的立場から来るものだろう。否定するのは学者のみならず、長次郎以外のほとんど全てである。同時代の大茶人や有名陶芸家も滅多切りにしているから、さぞかし嫌われたはずだ。職人に素地を作ってもらって絵付けを散々やってから、しょせん職人には芸術など分からないから自分で素地からやると宣言しているあたりは、さぞかし知人の陶芸家たちから縁を切られたのではなかろうか。五人もの妻から去られ、自ら経営していた星岡茶寮からも追放されている。いい人でなかったのは間違いない。
 だがそれも、彼が妥協せず信念を追求し、激しく実行していった人だったからだ。残された作品がそう語っているように思える。各地の窯跡を発掘し、古陶の再現に力を尽くしたのは彼である。敗戦して自国の文化を卑下してしまうようになった日本において、彼の主張は世界にまで届き、アイデンティティ回復に貢献した。
 言説だけをとれば子供じみて偏狭にも見える魯山人だが、彼の作品をもっと知って、彼の成し遂げたことにもっともっと近づいていってみたい。